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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)1714号 判決

原告

有限会社マルカツ

右代表者代表取締役

岩本吉博

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

松本司

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

辻川正人

岩坪哲

東風龍明

片桐浩二

田辺保雄

被告

株式会社ミニボックス

右代表者代表取締役

松本秀樹

右訴訟代理人弁護士

新井博

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、「バーキンセブン」又は「BIRKIN7」の商標を乗用自動車に付し、又はこれを付した乗用自動車を販売しもしくは広告してはならない。

二  被告は、前項の乗用自動車を廃棄せよ。

三  被告は原告に対し、金一一九八万八〇〇〇円及びこれに対する平成六年三月一日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、南アフリカのバーキン社との間で締結した同社製造にかかる「バーキンセブン」型レーシングカータイプの乗用自動車の一手輸入販売契約に基づき、バーキン社から輸入し、バーキン社の許諾を受けてこれに「バーキンセブン」又は「BIRKIN7」の商品表示(以下、これらの各商品表示を合わせて「本件商品表示」という)を付した前記乗用自動車(以下「原告自動車」という)を国内で販売している原告が、本件商品表示は原告の商品であることを表示するものとして日本国内の乗用車購買者層に周知となっていると主張して、本件商品表示と同一の商品表示を付した乗用車(以下「被告自動車」という)を国内で販売、広告している被告に対し、不正競争防止法二条一項一号に基づき、被告の販売する自動車に本件商品表示を付し、又はこれを付した被告自動車を販売、広告することの差止め、被告自動車の廃棄及び被告が被告自動車の販売によって得た利益一一九八万八〇〇〇円と同額の損害の賠償を求めた事案である。

一  基礎事実

1  当事者

原告は、昭和五一年四月に営業を開始した丸勝自動車こと井上勝巳の個人営業を前身として平成二年六月一五日に設立された各種自動車の輸入、販売等を業とする会社である。井上勝巳は、原告のオーナーとして、従業員の岩本吉博を形式上の代表取締役に据え、自ら原告の実質的な社長として采配を振るっている(甲六七、証人井上勝巳、弁論の全趣旨)。

被告は、群馬県高崎市内に三店舗、北海道札幌市内に一店舗の各直営販売店を有し、各種自動車の輸入販売業を営んでいる会社である(争いがない)。

2  原告の行う自動車輸入販売及び商品表示

南アフリカのバーキン社は、一九八三年(昭和五八年)頃から「BIRKIN7」又は「「BIRKIN SEVEN」の名称で、セブン型と呼ばれるレーシングカータイプの乗用自動車(以下「バーキンセブン車」という)を製造販売していたところ、原告の前身である個人営業としての井上勝巳は、昭和六三年、バーキン社との間でバーキンセブン車の一手輸入販売契約を締結し、原告設立後は原告が右契約上の地位を承継した。原告の前身である個人営業としての井上勝巳ないし原告(以下、原告への法人成りの前後を問わず「原告」ということがある)は、右契約に基づき、バーキンセブン車を輸入し、バーキン社の許諾を受けてこれに本件商品表示を付した原告自動車を直営店又は販売代理店を通じて全国的に販売している(甲一、証人井上勝巳)。

3  バーキンセブン車の由来

バーキンセブン車は、イギリスのロータス社が製造し、爆発的な人気を博したロータスセブンをオリジナルとするセブン型と呼ばれるレーシングカータイプの乗用車の一種である。なお、オリジナルのロータスセブンは、一九七四年頃以降は製造されておらず、現在、ロータス社からロータスセブンに関する権利を買収したケーターハム社及びバーキン社がセブン型の乗用車をロータスセブンのレプリカ(複製品)として製造販売している(甲一、証人井上勝巳、被告代表者)。

4  被告による本件商品表示を使用した被告自動車の販売広告活動

被告は、平成五年四月頃以降、本件商品表示と同一の商品表示を付した被告自動車の販売、広告を始めた(争いがない)。被告自動車は、被告がバーキン社から英国所在のジャパン・アンド・ヨーロッパ・モータース(以下「JEM」という)を経由して並行輸入したものである。被告は、同年一二月をもって被告自動車の輸入を停止した(乙一五、被告代表者、弁論の全趣旨)。

第二  争点

一  本件商品表示は原告の商品表示として周知性を取得しているか。

二  被告自動車の輸入、販売は、真正商品の並行輸入にかかるものとして許容されるものであるか否か。

三  被告に損害賠償責任ありとした場合原告に対し賠償すべき額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  本件商品表示は原告の商品表示として周知性を取得しているか。

(原告の主張)

1 原告は、本店所在地の大阪営業所のほか、関東圏内における販売・営業拠点として「マルカツ東京店」(世田谷区等々力)、「マルカツワークス横浜」を擁するほか、全国約六四店舗の自動車販売業者との間で乗用車の販売代理店契約を締結しているなど、日本国内において直営店、販売代理店網を有するスポーツカータイプの乗用車を中心とする総合ディーラーとして、全国規模の営業を行っている。

そして、原告が昭和六三年以来今日までに輸入し国内で販売した原告自動車は八〇〇台に上り、そのうち約五〇〇台は平成四年までに販売したものである。

2 バーキン社は、元来南アフリカ国内においても世界的にも無名な自動車メーカーであったが、原告は、昭和六三年頃に原告自動車の輸入販売を開始してから、「カーグラフィック」等多数の各種自動車雑誌(全国誌)への広告掲載による宣伝広告活動を継続するとともに、「東京中日スポーツ」等各種新聞及び「じゃらん」(リクルート社)等各種一般雑誌において記事作成協力及び車両提供を行って原告自動車の宣伝を行い、更に、テレビ東京系「DS車探偵団」等のテレビ放送においても車両の提供及び取材協力等を通じて原告自動車の宣伝広告を実施し、その他各種ビデオ映画への制作協力として原告自動車の提供を行った。その費用は、昭和六三年以来の累計で一億円を下らない。

右宣伝広告には、本件商品表示及び原告の商号、原告の他の取扱商品の内容、原告の販売代理店網等を明示することにより、原告自動車の出所が原告であることを明示している。

3 右宣伝広告活動により、本件商品表示は、平成四年末頃までに原告の商品表示として日本国内の乗用自動車購買者層に周知のものになった。

(被告の主張)

1 原告自動車及び被告自動車の製造会社であるバーキン社は、「BIR-KIN SEVEN」と命名し、その名称で輸出、販売している。原告が使用している本件商品表示は右呼称そのものであって、この呼称は、従前からバーキン社の製造する自動車の商品表示として世界各国で使用されていたものであり、わが国の被告以外の会社でもこの商品表示を用いている。

2 本件商品表示である「バーキンセブン」のうち「バーキン」とは右製造会社の名称であり、「セブン」とは、この種のレーシングカータイプの自動車として爆発的人気の出たロータス社の「ロータスセブン」という自動車の商品表示(その後、ロータスセブンに関する権利はケーターハム社に買収されて、「ケーターハムセブン」と変更されている)を意識的に使用したものと推測でき、その形状も似ている。バーキンセブン単を購入する客はそれがオリジナルのロータスセブンに似ているから購入するのであって、これと離れて原告の営業行為によって評価を得たからではない。

原告は、その宣伝広告活動によって本件商品表示が原告の商品表示として周知のものになった旨主張するが、消費者にとっては、「バーキンセブン」がバーキン社の製造したレーシングカータイプの自動車の商品表示であることの認識はあっても、原告との結び付きは極めて希薄である。

なお、原告自身も、原告自動車を販売していることについて、ケーターハムセブンの輸入総代理店である紀和商会から形状が似ているということで不正競争防止法に基づき提訴されている立場にある。この意味でも原告に保護されるべき正当な利益が存するかどうか疑問である。

二  被告自動車の輸入、販売は、真正商品の並行輸入にかかるものとして許容されるものであるか否か。

(被告の主張)

1 並行輸入業者のする真正商品の輸入及び販売を制限できないことは、いわゆるパーカー事件の判決等多数の裁判例の示す乏ころであり、関税定率法二一条に関する個別通達(昭和四七年八月二五日蔵関第一四四三号)では、真正商品についての並行輸入は商標権を侵害しない旨定められるに至っている。また、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用につき、公正取引委員会は、平成三年七月一一日にガイドラインを公表したが、その中で並行輸入の不当阻害が違法であるケースを詳細に定めているのであって、真正商品の並行輸入はかえって法で保護されている。

2 被告が輸入、販売した被告自動車は、すべてバーキン社が製造したバーキンセブン車の真正商品である。バーキン社が旧来製造しているのはケント一三〇というエンジンを使用するものであり、被告は、これに何ら手を加えずに国内で販売していたものである。原告は、被告自動車はバーキン社により「BIRKIN」との商標が付された自動車(バーキン車)であり、バーキンセブン車とは品質の異なる別個の自動車である旨主張するが、バーキンセブン車とは別のそのような自動車は原告が本訴で主張する以外聞いたことがない。したがって、被告自動車について需要者に商品の出所・品質について誤認混同を生じさせることは全くなく、商品表示の機能である出所表示機能と品質保証機能とを損なうものではない。かえって、需要者にとっては公正な競争による健全な価格形成が望ましいし、製造元であるバーキン社にとっても、被告らの努力によって販売台数が増大することは有益であり、それがためにJEMを通じて被告への供給が続けられたのである。

原告の請求は、バーキン社の一手輸入販売業者として、これら商品表示の機能とは無関係な独占的利益を得るために不正競争防止法に基づく権利を主張するものであって、その根拠として主張するものは単に被告より数年先に販売していたということにすぎず、理由がない。原告が原告自動車の宣伝広告にかけた費用は、被告が被告自動車を販売するに当たって要した費用と同種のものである。また、被告が輸入するに当たっては、輸出元のJEMがかけた宣伝広告費を転嫁した金額で仕入れることになるので、この点で被告が有利になるのではない。

3 原告は、バーキンセブン車について原告の有する営業上の信用は、海外メーカーであるバーキン社とは関係なく、原告がその宣伝広告活動及び営業活動を通じて独自に取得したものである旨主張するが、バーキンセブン車は形状からして特殊な車両であり、限られた愛好者の中で知られているにすぎないところ、それら愛好者は他のセブン型シリーズといわれる車両の一つとしてバーキンセブン車の存在を認識しているのであって、原告の宣伝広告とは関係がない。

また、原告の行った宣伝広告において、「ロータスの名作」「現在もロータス・スーパーセブンがファミリーネームをバーキン7として」「南アフリカ・メルセデスベンツ・ディーラーズネットワークを通じて出荷され続けている」「バーキンセブンはレプリカではない」「バーキン社がロータスの正統モデル工場として正式に認められて」という記事が反復掲載されているが、バーキンセブン車がロータスセブンのレプリカであることは明らかであり、右記事の内容は虚偽である。また、真否は別として、原告は「バーキン社は南アフリカ国内においても世界的にも無名」「実質的には(バーキン社は)原告の下請けメーカー」などと右広告と矛盾するような主張をしている。したがって、原告が広告を通じて取得したと主張するものは虚偽の事実に基づくものである。

原告主張の「BIRKIN7」の「IN」の部分にユニオンジャックの一部分を組み込んだやや図案化された文字標章は、バーキン社固有のものであり、原告が考え出したものではない。

(原告の主張)

1 被告自動車は、もともとバーキン社により「BIRKIN」との商標が付された自動車(以下「バーキン車」という)であり、バーキンセブン車よりも価格の低廉なスタンダードモデルであって、バーキンセブン車とは品質の異なる別個の自動車である。例えば、エンジン性能に関しては、バーキンセブン車が一三〇馬力以上(被告による販売が開始された平成五年四月頃のスペック〔仕様〕。現在は一三五馬力以上)であるのに対し、バーキン車は一一〇馬力であり、その他、触媒、タイヤ幅、フェンダーの形状、シートの形状(サイドサポーターの有無)、窓面におけるデフロスター(曇り止めの熱コイル)の有無等主要な仕様が異なり、したがって、バーキン社における輸出価格にも約二〇〇〇USドル以上の開きがあるし、車体番号も相互に異なる。

真正商品の並行輸入として許容されるには、最低限、その商品の商標が製造元である外国商標権者により適法に付されたものでなければならないのであって、製造元が付した商標と国内販売業者が付した商標とが異なる場合のその商品は、真正商品ではないところ、被告は、右のとおりバーキンセブン車とは品質の異なるバーキン車をバーキン社以外の者から輸入し、これに本件商品表示と同一の商品表示を付して(バーキン社が付したものではない)国内で販売したものであるから、真正商品の並行輸入には当たらない。

2 仮に、被告自動車がバーキン社によって「BIRKIN7」との商標を付されたバーキンセブン車であるとしても、以下のとおり、被告の行為は真正商品の並行輸入として許容されるものではない。

商品の出所の混同を生じさせる不正競争行為は、日本国内において周知の商品表示と同一のものを使用する行為をいうのであり、国内で周知商品表示を有する者以外の者が、同一の商品表示の付された物品を輸入、販売する行為は、原則として不正競争行為となる。但し、国内で周知商品表示を有する者が独自に営業上の信用を取得したものではない場合、換言すれば、その信用が海外メーカーの世界的に著名な商品表示に化体する信用の借り物にすぎないと評価される場合には、並行輸入業者との関係で国内で周知商品表示を有する者の信用を保護する必要がないとされるのである。

具体的には、海外からの商品輸入の開始時においては海外メーカーが日本国内で全く無名であったが、当該商品に付された商品表示が国内の輸入業者の宣伝広告活動によって初めて日本国内の需要者にとって周知になり、しかも、輸入業者自身が同商品につき国内の需要者独自のニーズに合わせて仕様の変更などの指示を海外メーカーに対して行っている場合には、輸入業者固有の営業上の信用が築かれたものとして保護されるのであり、その後海外メーカーが右輸入業者以外のいわゆる並行輸入業者に対して商品を輸出した場合、海外メーカーと並行輸入業者の行為は、まさに当初の輸入業者が独自に築いた営業上の信用にフリーライドするものである。

本件においてバーキンセブン車について原告の有する営業上の信用は、海外メーカーであるバーキン社とは関係なく、原告がその宣伝広告活動及び営業活動を通じて独自に取得したものである。すなわち、バーキン社は、前記のとおり元来南アフリカ国内においても世界的にも無名な自動車メーカーであったのであり、また、バーキンセブン車の宣伝広告をした実績もほとんどないのに対し、原告は、独自に原告が原告自動車の出所であることを明示して宣伝広告活動を行い、もって日本国内における乗用車購買者層の間に、本件商品表示を原告の商品表示として周知ならしめたのである。原告とバーキン社との間にはバーキンセブン車の一手輸入販売契約が存するが、現実には、バーキン社の地位は、原告からの指示により車両の仕様を決定し、また、原告からエンジン等の主たる構造品の供給を受けるなど、実質的には原告の下請けメーカー的な色彩が濃い。

したがって、バーキン社は本件商品表示について独自の営業上の信用を有しておらず、むしろ、本件商品表示に化体された営業上の信用は原告がその営業活動、宣伝広告活動を通じて取得したものであるから、本件において被告による被告自動車の輸入行為が真正商品の並行輸入として許される余地はない。また、原告は、バーキン社から輸入したバーキンセブン車に原告自身の創意にかかる「BIRKIN7」の「IN」の部分にユニオンジャックの一部分を組み込んだやや図案化された文字標章のステッカーを貼付し、また、宣伝広告にもこれを用いているところ、被告は、右文字標章をも自己の宣伝活動に使用しているのであり、右行為が原告の営業上の信用にフリーライドしたものであることは明白である。

三  被告に損害賠償責任ありとした場合原告に対し賠償すべき額。

(原告の主張)

1 被告は、平成五年三月以降平成六年二月までの間、諸経費込みで一台当たり三三三万円の価格をもって被告自動車三六台を販売し、合計一億一九八八万円を売り上げた。被告自動車の純利益率は一〇パーセントを下回らないから、被告は、右行為により少なくとも金一一九八万八〇〇〇円の利益を受けた。

2 原告は、被告の受けた右利益と同額の損害を被ったものと推定される(不正競争防止法五条一項)。

(被告の主張)

原告の主張は争う。なお、被告自動車の販売価格は当初二九八万円であり、三三三万円で販売した(但し、本体価格は二八九万円)のは、後期のものである。

第四  争点に対する判断

一  争点一(本件商品表示は原告の商品表示として周知性を取得しているか)について

1  証拠(各項掲記のもの)によれば、次の(一)ないし(五)の事実が認められる。

(一) バーキンセブン車の由来について、原告が作成した原告自動車のパンフレット(甲一)には、概ね次のような説明がされている。

「ロータス社の創始者であるコーリン・チャップマンは生前、ロータスF1の新時代に向け、南アフリカでのロータスカーズの展望を画策し、精力的に活動するが、一九八一年に突然死去した。チャップマンの遺志をついだ未亡人のヘイゼル・チャップマンは、南アフリカロータス計画を自らの手で実現すべく、ダーバンに旧知のジョン・バーキン・ワトソン(バーキン社の経営者)を訪ね、スーパーセブン製造許可契約と南アフリカロータスへの働きかけを行った。その結果、翌年、ヘイゼル・チャップマンは、世界のマスコミ、自動車関係者を招待してジョン・バーキン・ワトソン製造のスーパーセブン発表会を開き、バーキン社は、ロータスの正統モデル製造工場として正式に認められ、一九八三年、ジョン・バーキン・ワトソンはロータス社との生産契約のもとに、本格的なスーパーセブンの生産に踏み切った。チャップマンの没後、一〇年。ロータスの原点、正統スーパーセブンは、BIRKINSEVENのファミリーネームで、世界のエンスージァストのために、当時のままの工場から送り出されています。」

(二) バーキン社は、前記のとおり、一九八三年(昭和五八年)頃からバーキンセブン車を製造販売していたが、南アフリカ国内ではあまり売れず、原告が昭和六三年に日本国内においてその輸入販売を開始する前にバーキン社が製造したバーキンセブンの台数は二〇台程度であった(甲六七、証人井上勝巳)。

(三) 原告は、原告自動車を輸入販売するようになって後、平成元年三月頃から、次の各種自動車雑誌(甲四ないし六五の各1ないし3、一一の4、六二の4)に継続して原告の総合広告、本件商品表示を付した原告自動車の車両広告、体験試乗記事を掲載した。

「カーグラフィック」平成元年一一月・一二月・平成二年五月・九月一〇月・一二月・平成三年一月・六月・七月各号(株式会社二玄社発行)「カーマガジン」平成元年三月・四月・六月・七月・一〇月・平成二年三月各号(株式会社企画室ネコ発行)、「くるまにあ」平成元年三月〜九月・平成二年五月・六月・平成三年九月・一〇月・平成四年三月・八月・一一月・平成五年一月各号(株式会社マガジンボックス発行)、「カーロード」平成元年三月・五月・平成二年三月・九月・一〇月各号(株式会社交通タイムス社発行)、「外車情報ウィズマン」平成元年七月・一一月一二月・平成二年二月・三月・六月・七月・九月・平成四年三月・一二月各号、「特選外車総特集チャージ」平成四年一月・六月・七月各号、「特選外車情報サミット」平成二年八月〜平成三年一月・五月・九月・一〇月・一二月各号(いずれも成美堂出版株式会社発行)、「カーバイセル」平成二年一〇月号(株式会社アミカル発行)、「REVSPEED」平成四年一〇月・一一月・平成五年一月各号(株式会社ニューズ出版発行)

そのほか、原告は、東京中日スポーツ、報知新聞、スポーツニッポン等の各種新聞、「じゃらん」(リクルート社)、「ホリデーオート」(モーターマガジン社)、「チェックメイト」(講談社)、「ゼロサン」(新潮社)、「カーEX」(世界文化社)、「ポパイ」(マガジンハウス)、「カーアンドドライバー」(ダイヤモンド社)、「メンズクラブ」(婦人画報社)、「ブーン」(祥伝社)等の各種雑誌に対し車両提供及び記事作成協力を行い、また、テレビ東京系「DS車探偵団」、TBS系「所印のくるまはえらい」等のテレビ放送に対しても、車両提供及び取材協力をするなどして、原告自動車の宣伝広告活動を継続して行った。

これらの宣伝広告費用は、当初からの累計額で約一億円、平成五年度で約八〇〇万円であった(甲六七、証人井上勝巳)。

(四) 原告は、前記の宣伝広告に当たっては、原告への法人成りの前後を問わず一貫して原告の営業表示である「マルカツ」の名称を表示していた。原告は、一方、これらの広告に、原告自動車を「ロータスの名作」あるいは「チャップマンの血統」とした上で、「バーキン7は、一九八三年にヘーゼル・チャップマン率いるティーム・ロータスが製造開発に関わり、従来のスーパー7の弱点を改良し、八三年型ロータス・スーパー7として南アフリカで販売されていたが、アパルトヘイト問題などで製造を中止するまで、南アフリカ産ロータス・スーパー7の製造責任を任されていたのがジョン・バーキン・ワトソンであった……」との記事、南アフリカ・ロータス社が開いたロータス・スーパー7バーキンの発表会の模様を撮影したという写真を掲載した上「以上の事を見ても、ジョン・バーキン・ワトソンが作り出すスーパー7のできばえの良さは世界に誇れるものであった事がよく分かるはずです。…今も尚、ジョン・バーキン・ワトソンによって、同じ工場から同じスーパー7がファミリーネームを変えバーキンスーパー7として、南アフリカ・メルセデスベンツ・ディーラーズネットワークを通じ、出荷され続けています」、あるいは「一九七八年、ヘイゼル・チャップマンは南アフリカのジョン・バーキン・ワトソンにロータスの製造許可を正式に与え、スーパーセヴンの生産が開始されます。ファミリーネーム『バーキンセヴン』は、現在も、南アフリカの当時の工場で正統モデルとして生産が継続され続けています」などといった記事を掲載するなど、前記(一)記載の原告作成のパンフレットとともに、原告自動車は、著名なロータスセブンをモデルとするものであり、かつ、ジョン・バーキン・ワトソンがロータスの創始者であるコーリン・チャップマンの死後その妻から正式に製造許可を与えられ、バーキン社の工場によって製造されているものであることを強調している(甲四ないし一〇の各2、一一の3等)。

(五) バーキンセブン車は、昭和六三年に原告がバーキン社との間の一手輸入販売契約に基づき初めて日本国内での輸入販売を始めた後、しばらくは他に競合する業者がなく、原告が日本国内の直営店又は販売代理店を通じてその販売を独占してきたものであり、その販売台数は合計五〇〇台程度に達したが、平成五年頃になって、被告その他の業者がその並行輸入を始めるようになった。

なお、バーキンセブン車は、レーシングカータイプという特殊な乗用車であるため、その購買者層は自動車購買者の中でも自動車に特に興味を抱いている者に限られ、ほとんどの場合、サードカー(一家の三台目の車)として購入される(甲六七、乙一〇の1ないし3、証人井上勝巳、弁論の全趣旨)。

2  以上の事実によれば、原告がバーキンセブン車を輸入し、本件商品表示を付して日本国内で販売を開始した昭和六三年当時、日本国内のこの種乗用車の購買者層において「バーキン社」という社名あるいは「バーキンセブン」という車名がどれほど知れ渡っていたか明らかではないが、バーキンセブン車を初めて日本国内に輸入したのが原告であり、原告は、バーキン社との間で一手輸入販売契約を締結して、他の業者がこれを並行輸入して販売するようになる平成五年頃まで、日本国内におけるバーキンセブン車の輸入販売を独占していたものであって、前記のような各種自動車雑誌、新聞、テレビ等により日本全国にわたり継続的に本件商品表示を付した原告自動車の宣伝広告活動を実施し、右宣伝広告に当たっては原告への法人成りの前後を問わず一貫して原告の営業表示である「マルカツ」という名称を明示してきたものである。そうすると、本件商品表示は、平成四年末までには、原告の輸入販売にかかる自動車の商品表示として日本国内のこの種乗用車の購買者層において周知のものになったということができる。

もっとも、前認定によれば、原告は、右宣伝広告に際し、原告自動車は、バーキン社を経営するジョン・バーキン・ワトソンがヘイゼル・チャップマンからロータスセブンの製造許可を正式に与えられ、その正統モデル工場であるバーキン社の工場で製造しているものであり、世界的に著名なロータスセブンをオリジナルとする正統なセブン型乗用車であることを強調して宣伝していることが明らかであるから、「バーキン」社の製造した「セブン」型乗用車という単純明快な命名の仕方と相俟って(原告の営業表示は「マルカツ」であって「バーキン」とは全く関係がないから、わが国のこの種乗用車の購買者層にとって、本件商品表示が「バーキン」社製の「セブン」型乗用車を意味するものであることは容易に推測できるところである)、本件商品表示は南アフリカのバーキン社の製造販売にかかる自動車の商品表示としても周知性を取得したといえるが、そのことは、本件商品表示が原告の輸入販売にかかる自動車の商品表示として周知のものになったとの前記認定を左右するものではないというべきである。

二  争点二(被告自動車の輸入、販売は、真正商品の並行輸入にかかるものとして許容されるものであるか否か)について

1  前示のとおり、本件商品表示は原告の輸入販売にかかる自動車の商品表示として周知のものといえるから、被告が本件商品表示と同一の商品表示を付して被告自動車を販売し、広告する行為は、被告自動車を原告自動車と誤認混同させる行為と一応いうことができる。

しかしながら、被告は、被告が輸入、販売した被告自動車は、すべてバーキン社が製造したバーキンセブン車の真正商品であって、被告はこれに何ら手を加えずに国内で販売していたものであるから、本件商品表示の出所識別機能と品質保証機能を何ら損うものではなく、したがって、被告自動車の輸入、販売は真正商品の並行輸入にかかるものとして許容されるものである旨主張する。

国内における周知商品表示と同一の商品表示を付した商品が海外から輸入され、国内で販売等される場合、当該商品が右商品表示を適法に付された上で拡布されたものであって、かつ国内の周知商品表示の主体が右の海外で周知商品表示と同一の商品表示を適法に付して拡布した者と同一人又は同一人と同視されるような特殊な関係がある場合には、当該商品は真正商品ということができ、両商品表示が表示し又は保証する商品の出所、品質は同一ということができ、出所識別機能及び品質保証機能を何ら害するものではないから、当該商品を国内において販売等する行為は、真正商品の並行輸入として、不正競争行為としての違法性を欠き、許容されるものというべきである。但し、国内の周知商品表示の主体が自らの商品に独自の改良を施したり固有の付加価値を加えるなどし、その周知商品表示と海外で適法に付された商品表示の表示し又は保証する出所、品質が異なるものであると認められるときは、前記周知商品表示の機能からして、真正商品の並行輸入として許容されるものでないことは当然である。

2  原告は、被告自動車がバーキン社の製造した自動車であることは、これを争わないものの、被告自動車は、もともとバーキン社により「BIRKIN」との商標が付された自動車(バーキン車)であり、バーキンセブン車よりも価格の低廉なスタンダードモデルであって、バーキンセブン車とは品質の異なる別個の自動車であり、被告はこれに本件商品表示と同一の商品表示を付して(バーキン社が付したものではない)国内で販売したものであるから、真正商品の並行輸入には当たらない旨主張し、バーキンセブン車とバーキン車との相違点として、例えばエンジン性能に関しては、バーキンセブン車が一三〇馬力以上(被告による販売が開始された平成五年四月頃のスペック〔仕様〕。現在は一三五馬力以上)であるのに対し、バーキン車は一一〇馬力であり、その他、触媒、タイヤ幅、フェンダーの形状、シートの形状(サイドサポーターの有無)、窓面におけるデフロスター(曇り止めの熱コイル)の有無等主要な仕様が異なり、したがって、バーキン社における輸出価格にも約二〇〇〇USドル以上の開きがあるし、車体番号も相互に異なる旨主張するので、検討するに、証拠(甲一、四の2、九の2、六七、六八の1ないし3、六九、七〇の1・2、七一の1ないし3、乙六、一五、検甲一・二の各1ないし4、証人井上勝巳、被告代表者)によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告は、平成四年暮頃に、従前取引のあったJEMからバーキン社の製造する「バーキンセブン」という乗用車を輸入しないかとの申出を受け、バーキン社作成の右乗用車の仕様書(乙六)の送付を受けた。右仕様書の表側上部には大きく「THE BIR-KIN SEVEN」との表示があり、その下に原告が日本国内において原告自動車を撮影した写真が大きく掲載され、その下の説明部分にも「The Birkin Seven」という記載がある。そして詳細な仕様を記載した裏面の上部にも、「The Birkin 7 Standard Sprint Model Specification」と太字で記載されている。また、その後被告がJEMからファックス送信を受けた一九九三年(平成五年)二月一六日付書面には、被告に輸出されるべき自動車を「BIR-KIN SEVEN」と表示した上で、「スペックは日本へ出ているのとまったく同じです」と記載されている。

(二) 原告自動車には、搭載するエンジンの種類により①ケント一三〇PS/1.6リットル、②コスマ一八〇PS/1.7リットル、③コスマ二五〇PS/2.0リットルの三種類のバージョンがある(①はバーキン社の製造するケント一三〇型エンジンを搭載し、②③は、いずれも米国コスワース社製のエンジンを搭載している)が、車両の外観及びサスペンション等の機械構造部分は共通している。また、アルミ製ボンネットの左右側面に「BIR-KIN7」の「IN」部分にユニオンジャックの一部分を組み込んだやや図案化された文字標章のステッカーが貼付され、ノーズコーンの前面中央部、ホイールの中心、ハンドルの中央部(ホーンボタン)に「BIRKIN7」文字の入ったエンブレムが取り付けられている。

(三) これに対し、被告自動車は、バーキン社の製造するケント一三〇型エンジンを搭載する一種類のみであるが、このエンジンは、原告自動車の一車種(前記①)に搭載されているエンジンと同じものである。

このほか、原告自動車のエンジンルーム内のプレートには金色で「BIR-KIN SEVEN」と表示され、その下に刻印されている車体番号は「MK」で始まるのに対し、被告自動車の中には、そのエンジンルーム内のプレートに銀色で「BIRKIN CARS」と表示され、その下に刻印されている車体番号が「BK」で始まるものがある等の相違があるが、被告自動車も、原告自動車と同様、セブン型と呼ばれるレーシングカータイプの乗用車で外観上はほとんど変わりがない。

(四) 原告は、原告自動車につき、平成五年二月までに、バーキン社に対し、日本の需要者向けにボディの形状やエンジン等の仕様を変更するよう指示し、コスワース社製のエンジンユニットそのものや、フェンダーの成型用の型やブラケットのサンプルを供給していた(その後、一九九四年〔平成六年〕型モデルでは、マイナーチェンジをした)。

3 右認定の事実によれば、被告自動車の輸入開始に先立って被告がJEMから送付を受けたバーキン社作成の仕様書(乙六)には、右車両の名称が「BIRKIN SEVEN」である旨記載され、原告が日本国内において撮影した原告自動車の写真が掲載されており、また、JEMからファックス送信を受けた一九九三年(平成五年)二月一六日付書面(乙一五)でも、被告に輸出されるべき自動車の名称を「BIR-KIN SEVEN」と表示しているのであるから、被告自動車は、バーキン社によって本件商品表示と同一の商品表示を付された自動車ということができる。

また、被告自動車の内容を見ても、被告自動車は、原告自動車と同様、世界的に著名なロータスセブンをモデルとしたいわゆるセブン型の乗用車であって、細かい点はともかく外観上は原告自動車とほとんど同じであり(このことは証人井上勝巳も概ね認めるところである)、その搭載エンジンも、三種類ある原告自動車のうちの一種類が搭載しているのと同じケント一三〇型であるから、原告自動車のうちケント一三〇型エンジンを搭載したものと基本的に同一の性能を有するものということができる。

したがって、被告自動車は、バーキン社によって適法に本件商品表示と同一の商品表示を付された真正商品ということができる。

原告は、前記のとおり、被告自動車はバーキン社により「BIRKIN」との商標が付された、バーキンセブン車とは品質の異なる別個の自動車(バーキン車)である旨主張するが、そもそもバーキン社が製造するセブン型のレーシングカータイプの乗用車として、「バーキンセブン」という名称の乗用車のほかに「バーキン」という名称の乗用車が存在するとの事実は、本件全証拠によっても認めることができない。被告自動車の中には、エンジンルーム内のプレートに原告自動車のそれとは異なり「BIRKIN CARS」と表示されているものがあるが、「BIRKIN CARS」とはバーキン社の社名にすぎず(乙六参照)、このことから直ちに被告自動車がバーキン社により「BIRKIN」との商標を付された乗用車であるということはできない。また、車体番号の点についていえば、車体番号が異なれば当該車両に付された名称ないし商標も当然に異なるものであると認めるに足りる証拠はない。

4  そして、原告は、バーキン社との間でバーキン社の製造するバーキンセブン車につき一手輸入販売契約を締結しているものであるから、バーキン社と同一人と同視されるような関係があるということができる。

したがって、前記1に説示したところに従い、被告がバーキン社によって適法に本件商品表示と同一の商品表示を付された被告自動車を輸入し、販売するなどの行為は、原則として、不正競争行為としての違法性を欠き、許容されるものというべきである。

5 もっとも、原告が、バーキン社から輸入したバーキンセブン車をそのまま販売するのではなく、これに原告独自の改良を施したり固有の付加価値を加えるなどし、本件商品表示がかかる改良・付加価値を加えた乗用車を表示するものとして日本国内において周知性を取得するに至り、当該自動車がバーキン社の製造したセブン型乗用車であるという評価と離れて、原告の取り扱う乗用車として独自の信用を獲得するに至ったときは、それはもはやバーキン社が製造した乗用車とは出所、品質を異にするというべきであるから、前記1末尾に説示したところに従い、被告が、バーキン社が製造し本件商品表示と同一の商品表示を付した被告自動車を同社から輸入して販売することは、真正商品の並行輸入として許容されるものではないので、この点について検討する。

この点に関し、原告は、原告自動車につき、平成五年二月までにバーキン社に対し、日本の需要者向けに若干の仕様を変更するよう指示していたほか、フェンダーの成形用の型等をバーキン社に送付し、右仕様に基づいた車両を原告自動車として輸入販売していたことは前記のとおりである。しかし、被告が被告自動車の輸入を開始する際にJEMからファックス送信を受けた一九九三年(平成五年)二月一六日付書面には「スペック(仕様)は日本へ出ているのとまったく同じです」と記載されているのであり、右にいう「日本へ出ているの」というのはこれまで日本国内に輸出されていたバーキンセブン車すなわち原告自動車を指すと解するのが合理的であり、原告は、平成五年二月までに既にバーキン社に対し右仕様の変更の指示、成形用の型等の送付を行っていたから、被告自動車も、右のような原告の指示により変更された原告自動車の仕様と同じ仕様に基づくものであったと推認するのが自然である。そうだとすれば、原告自動車と被告自動車の品質、性能は、全く相違がないということができる(なお、原告自動車には被告自動車が搭載しているのと同じケント一三〇型エンジンを搭載している種類の外に米国コスワーズ社製のエンジンを搭載している二種類のものがあるが、被告は右二種類のバーキンセブン車を販売していないから、一般消費者が右二種類の原告自動車を購入するつもりで被告自動車を購入することはあり得ず、かかる意味の混同を生じる余地はない)。検甲一・二の各1ないし4によっても、原告主張の原告自動車と被告自動車の形状、仕様の差異を明瞭に把握することはできず、他に右差異を認めるに足りる証拠はない。

原告は、原告は独自に原告が原告自動車の出所であることを明示して宣伝広告活動を行い、もって日本国内における乗用車購買者層の間に本件商品表示を原告の商品表示として周知ならしめたのであり、したがって、バーキン社は本件商品表示について独自の営業上の信用を有しておらず、むしろ、本件商品表示に化体された営業上の信用は原告がその営業活動、宣伝広告活動を通じて取得したものであるから、被告による被告自動車の輸入行為が真正商品の並行輸入として許される余地はない旨主張する。しかし、原告がバーキンセブン車の輸入、販売を開始した昭和六三年当時、日本国内のこの種乗用車の購買者層において「バーキン社」という社名あるいは「バーキンセブン」という車名がどれほど知れ渡っていたかは明らかでないものの、原告による各種媒体を利用しての宣伝広告活動により、本件商品表示が原告の輸入販売にかかる自動車の商品表示として日本国内のこの種乗用車の購買者層に周知のものになったことは前示のとおりであるが、本件商品表示は、それとともに、南アフリカのバーキン社の製造販売にかかる自動車の商品表示としても周知性を取得し、バーキン社をその出所として表示する機能をも有しているというべきであり、未だ原告自動車がバーキン社の製造したセブン型乗用車であるという評価と離れて原告の取り扱う乗用車として独自の信用を獲得したとはいえないから、右主張は失当といわざるを得ない(原告は「BIRKIN7」の「IN」の部分にユニオンジャックの一部分を組み込んだやや図案化された文字標章は原告自動車の創意にかかるものであると主張し、被告が右文字標章を使用していることを非難するが、仮に右文字標章が原告自身の創意にかかるものであるとしても、乙七、一一によればバーキン社自身本件商品表示の一形態として使用しているものであることが認められ、本件商品表示はバーキン社と離れては存在し得ないものであるから、右非難は当たらない)。

原告は、バーキンセブン車を初めて日本国内に輸入して販売した業者であり、本件商品表示を周知にするために多額の宣伝広告費を支出したのに対し、並行輸入業者である被告は、後行業者として原告ほどには宣伝広告費を負担する必要がないのであるが、真正商品である被告自動車の販売行為等が本件商品表示の出所識別機能及び品質保証機能を害することはないから、かかる事情は、被告自動車の販売行為等が不正競争行為としての違法性を欠く旨の前記判断を左右するものではないというべきである。

三  結論

したがって、被告に対し、被告自動車の販売、広告の差止め、廃棄及び損害賠償を求める原告の請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官水野武 裁判官田中俊次 裁判官本吉弘行)

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